母の教え

実家の母は、11月が来ると102歳になる。
その母から、まだ小学生だった頃からよく言われていた言葉の中に
「一を聞いて十を知る」
「やらないうちから”できない”と言うな」
がある。

5人きょうだい(姉2人、兄2人)の末っ子として育った私だが、末っ子だから…と言って甘やかされて育った記憶がない。
きょうだい誰もが家族の一員として、家の仕事を手伝っていた。
朝、学校に行く前、学校から帰った後、当たり前のように家の仕事をしていた。
そんな中で、親から言われたことだけをしていると、「一を聞いて十を知る」という言葉を聞かされた。
言われたことだけをするのではなく、そのことに付随することは何でも気を利かせてやっておきなさい、ということだった。
小学校低学年の頃である。
「そんなことできないよ」などと言うと、「親に口答えするものではない。やらないうちから”できない” などと言うな」と、酷く叱られたものだ。

母がそのように厳しくしてきたのには、それなりの理由があったからだ。
旧家のお嬢様として育った母は、父(三男)と結婚したあとも苦労なく過ごせると思ったのも束の間、突然、父が実家の跡を継ぐことになってしまった。
父は勤め人。畑もある。
そこから母の苦労が始まった。
母にとっては、それまで経験したことがないことばかりの連続。
子供には、自分と同じような苦労はさせたくない。何でもできるように育てておかなければ…。
それが、前述の小さい時からの家の手伝いや、「一を聞いて…」「やらないうちから…」の教えになったのだ。

母からの教えはこれだけではない。
まだまだ、たくさんある。
子どものころは冗談抜きで、「なんて厳しい親」とか「継母ではないか?」などと思ったこともあった。
だが、成長するにつれ、また仕事をするようになって、母の教えがいかに大事なことであるかをあらためて痛感した。

世の中には、誰かに何かをしてもらうことが当たり前のように考え、「〜〜をしてくれない」と言う人が案外多い。
自分で努力をせず、他者に依存するのが当然?
そして、それを認めているような世の中。
それって、おかしくないだろうか?

自分でできる努力はする。
その上で、他者の助けが必要な時は助けてもらう。
これからも、そんな生き方を続けていきたい。

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