自然と人

私は田舎で育ちました。
田畑への道の両脇に生えた雑草を真ん中で結び、後から来る人たちが足を引っ掛けて転ぶようないたずらをしたり、大きい子が引っ張るリヤカーに大勢で乗り、田んぼの中にまっしぐら‥‥。
頭から泥だらけになって家に帰ったこともありました。
自分の親に叱られるだけでなく、近所の人たちにも大声で叱られました。
愛情のこもった叱責でしたから、誰を恨むことも憎むこともありません。
自然の中で、地域全体の人たちから見守られながら育ったといえるでしょう。

先日、鞍馬山に行ったことをご報告しましたが、あの時、4歳の男の子が同行していました。
仏閣等を観て回ったり、自然の中に出かけることが好きな子供ですが、この時、ちょっと面白いことがありました。
本格的な登山とまではいかなくとも山に登る方ならご承知のように、知らない人同士でもすれ違いざまに「こんにちは」とか「もう少しですよ」とか挨拶を交わしますね。
その日もたくさんのグループと行き交い、その子もしっかりと言葉を交わしていました。
小さい子が言葉をかけると、皆さんとても温かい笑顔を返してくださいました。
が、あるグループとすれ違ったとき、こちらから挨拶しても返答がありませんでした。
「聞こえなかったのかな?返事してくれないよ」と言う子供の言葉に
「ああ、ごめんごめん。ばいば~い」と返ってきました。
「あのおじさん疲れていたのかな?」
「きっとそうだね。疲れていて、返事ができなかったんだよ」と同行者の一人が答えていました。
まさに『子供に教えられる』といった出来事でした。

この二つはまったく違う話ですが、「自然の中では素直な心になれる」という点で共通していると思います。
時代が違うとはいっても、煩雑な日常の中でこのようなことがあったなら、もしかしたら事態は違う方向へと展開していたかも知れません。
些細なことで、考えも及ばない凶悪な事件へと発展することもあります。
人は、自然の中ではほんとうに素直な心に戻れるんですね。

前の記事

2002/5月のメッセージ

次の記事

都内の自然