忘れている周囲への気配り

夕方の電車に乗ると、いきなり目に飛び込んできた光景があった。
飛び出るほどの大きな目をした女性が、一生懸命アイラインを引いていた。
ただでさえ大きな目が、益々大きく見え、目の中に吸い込まれてしまいそうだ。
両脇に座った男性は、神妙な顔をしている。
幾駅かを通過し、<いったいいつまでやっているのだろうか>と思っていると、ある駅で電車が止まり、乗客が乗り込んで来たところでおもむろに化粧道具をバッグに収め、慌てて降りていった。
両脇に座っていた男性は、ホッとため息をついている。
次の駅で隣に女性が座った。
座ると同時に袋をガサガサさせて何かを出し、食べたり飲んだり。
何を食べているのか、飲んでいるのか、あまりにも近すぎてあからさまに見ることができない。
やっと終わったようだなと思っていると、次はバッグから小物入れを取り出した。
どうやら化粧ポーチらしい。
今度はさりげなくチラリと見ると、ファンデーションを丁寧に丁寧に塗り込んでいる。
感心するくらい丁寧に塗っている。
電車を乗り換えると、先ほど隣に座っていた女性が前の座席に座った。
そして、またもや化粧ポーチを取り出し、アイラインを引き始めた。
丁寧に丁寧に・・・。
最近はこの光景をあまり見ることがなかったが、今日は久しぶりに「車内で化粧する女性」を見てしまった。
化粧をする人も、ガンガンとイヤフォンから音を漏れさせながら音楽を聴いている人も、全く自分だけの世界を作り上げている。
同じ空間にいる人々への気配りなど、まったく感じられない。
道徳心(マナー)も羞恥心も忘れ去られてしまっていることを痛切に感じた。

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