初めての冒険

2年生になってから交友関係が広がったアイちゃんは、遠くの友達のところまで遊びに行くようになりました。
以前は必ず宿題を済ませてから遊びに行っていたのに、最近はランドセルを玄関においてすぐ飛び出していきます。
そのアイちゃんが、昨日も「宿題は帰ってからするから・・・」と、ランドセルを玄関に置いたまま飛び出していきました。
約束の帰宅時間である5時をはるかに過ぎて、「ただいま~。遅くなってごめん」と、やっとアイちゃんのご帰還です。
「ちゃんと5時に帰ってこないとだめでしょう!」と、リビングから声をかける母親。
「う~ん。だけどね、全部濡れていてね、そっちに行けないんだよ」と、玄関で答えるアイちゃん。
「どうしたの?」
「ズボンも、靴下も、靴も、ぜ~んぶ濡れちゃったんだよ」
「じゃあ、靴下を脱いできなさい」


靴下を手にぶら下げてリビングに入ってきたアイちゃんは、ほんとうにズボンもシャツもびっしょりでした。
「どうしたの?」
「あのね。Oくんと、Oくんのお兄ちゃんと、お友達と、だれかわからないけど、川に行ってザリガニを取ったの。靴が濡れるといけないと思ったんだけどさ、ちょっと濡れてしまったら、もういいやって思って。ズボンも気がついたら濡れてたの。いっぱい取れたんだよ」
「川に遊びに行って、もし何かあったらどうするの? それに、ちゃんと5時に帰ってこなければだめでしょう! チャイムが聞こえたでしょう?」
「うん。だけどね、いつもよりチャイムの音が小さくて、よく聞こえなかったんだよ。それにね、行ったことがないところだったから、一人でどうやって帰ってきたらよいのかわからなかった」
親の心配をよそに、アイちゃんはすっかり興奮していました。
アイちゃんは、昨日上級生の男の子に連れられて、初めての冒険をしたのです。
その時のアイちゃんの気持ちを想像してみました。
川に行く時のワクワクとした期待感、ザリガニを取っている時の満足感、そして家路に向かう時の<叱られたらどうしよう?>という不安感。
2時間足らずの間に、いろいろな感情が沸き起こっていたことでしょう。
こうしてさまざまなことを体験する中で、子どもたちは事の善悪や大事なことなどを、一つひとつ身につけていきます。
子どもの時、どのようなことを、どれだけ体験したかということが、大人になってからも大きく影響しているように思います。